研究概要 |
今年度は,(1)人的流動・物的流動(キャッシュ・フロ-)を支える交通・物流ネットワ-クと高度情報通信ネットワ-ク(インテリジェンス・フロ-)との間の代替性(競合性)と補完性,(2)高度情報化が進展するなかで,大都市の規模・集積の効果,メリットはどのようなフェイズで形成され,変容していくのか,(3)高度情報化技術の発達は,東京以外の国際的自立型都市の発達を促すか否かに焦点を絞って研究を進めた。 混雑現象を内生的に組み込んだ都市システム非線形シミュレ-ション(以下単にシミュレ-ションと呼ぶ)・モデルを開発し,都心業務地区の企業での「在宅勤務(telecommuting)」システムの浸透が通勤混雑緩和に与える効果を分析した。また,経済活動の大都市への過度の集積によるデメリットを是正する混雑税,補助金システムを分析し,その効果をシミュレ-ションにより解析した。 来る高度情報化都市では,情報通信技術とネットワ-クの普及が都心に集中するオフィスの労働生産性や郊外住民の生活・労働環境に様々なインパクトを与えるであろう。企業内LANなどの発達は,オフィス労働の生産性を高め,都心に立地するオフィスへの労働力の集中を促し,交通ネットワ-クと補完的な役割を果たす。これに対して,WANやコンピュ-タ・ネットワ-ク等を利用した広域情報通信システムの発達は,郊外住民にオフィス勤務を在宅勤務へと転換させ,交通混雑を緩和する。広域情報通信システムは,交通ネットワ-クと代替的な役割を演じる。情報通信システムの発達によって,貨幣所得,余暇し住宅空間は増加し,住民の生活環境は改善する。交通ネットワ-クの改善は通勤時間を減少させるが,より長距離通勤を助長し,交通混雑をさらに悪化させる。混雑税の導入は,長距離通勤を減少させ,郊外化を抑制し,住宅空間を減少させる。他方,在宅勤務に補助金を支出すると,長距離通勤は減少し,住宅空間は拡大し,都市は拡大する。結果として,生活環境は改善され,より高位の最適化を実現することができる。住宅勤務が高度に発達した高度情報化都市では,集中がもたらす不利益を補助金で是正し,生活環境を改善しながらその利点を享受することができる。通信衛星を利用した国際的通信ネットワ-クの発達は,東京,ニュ-ヨ-クなどの情報集積都市へのアクセス利便性を高め,他方都市存続のための競争力を高めるものと期待できる。などの結果が得られている。これらを日本地域学会,太平洋国際地域学会で発表し,また『地域学研究』,Papers in Regional Scienceなどの専門誌に掲載した。
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