研究概要 |
企業の財務情報開示システムの研究において,企業がどのような種類の財務情報を開示するかを明らかにすることは重要である。企業の財務情報は,投資家あるいは債権者が投資あるいは貸付の意思決定を行うために,欠くことはできない。適切な意思決定は適切な情報を得てはじめて可能となる。 企業の財務情報の開示手段として,損益計算書と貸借対照表はよく知られている。しかし,近年,これに加えて,資金計算書を企業の財務情報開示システムのうちに導入することが注目されてきている。資金計算書は企業の現金収入と現金支出に関する情報を提供することによって,投資家や債権者が,(1)必要な資金を生み出す企業の能力を評価する,(2)債務の返済能力,配当の支払能力及び外部資金調達の必要を知る,(3)純利益と現金収支との間の差異の理由を明らかにする,(4)投資や資金調達の企業の財政状態に対する影響を知るのに役だつ。 アメリカにおいて,企業が開示する財務情報のうちに資金計算書が加えられた歴史は古く,その実務は、すでに制度化されており,研究も進んでいる。これまでの実務経験と理論研究の成果は,1988年に財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board)が発表した財務会計基準第95号「キヤツシュ・フロ-計算書」に結実している。したがって,本年度の研究はこの会計基準書を中心として行われた。またアメリカでは,一時,財政状態の変動を示すことに重点をおいた「財政状態変動表」が作成されることがあった。このため,「キヤツシュ・フロ-計算書」と「財政状態変動表」との比較研究も試みられた。 企業の財務情報の開示にあたってどのような会計基準が選択されるかは社会経済に及ぼす影響が大きい。本年度の研究は会計基準の選択とその社会経済的影響にも及んでいる。
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