平成3年度の研究は、交付申請書に記載した「本年度の研究実施計画」に従って行われた。 1.アメリカの財務会計基準審議会が1987年に公刊した基準書第95号「キャッシュ・フロ-計算書」を全訳し、これを中心として概念的研究を行った。これまでアメリカの諸企業が慣習的に開示してきた資金運用表、あるいはアメリカ公認会計士協会・会計原則審議会によって開示を義務づけられた財政状態変動表において、資金概念は弾力的に定義され、計算書はいろいろな面で多様性に富むものであった。これに対して、基準書第95号がアメリカの諸企業に開示を義務づけた「キャッシュ・フロ-計算書」は、ある期間の現金及び現金等価物の変動を説明するものと定義され、「現金」又は「現金等価物」に焦点ををあて、資金概念等の多様性を排するところに特徴があった。それは、わが国企業の財務情報開示システムのなかに組み込むべき資金計算書のモデルとなることが知られた。 2.基準書第95号がアメリカの諸企業に対して開示を求めている「キャッシュ・フロ-計算書」について、わが国諸企業がこれを開示する可能性を問う調査を行った。東京証券取引所第一部上場会社1222社の経理部長あてに調査書を送り、391社から回答を得た。この調査結果から、キャッシュ・フロ-計算書を財務諸表の一部として開示することに対して、回答者の60%が賛意を表しているものの、40%は必ずしもこれに賛成していないことが知られた。現在、経済の国際化が進展し、各国会計基準の国際的調整は緊急の課題となっている。しかし、この調査から知られたキャッシュ・フロ-計算書に対するわが国諸企業の経理担当者の意識からすると、こうした国際的調整が進められるためには、さらに説得力のある議論を展開しなければならないと思われた。
|