観光案内書、名所絵、紀行文などの古資料から「見どころ」を抽出し、地形図等を用いてその景観特性を分析した結果、高速道路のように国土を縦走する幹線道路上で得られる印象深い景観が持つ地形構造は概ね以下の6つで表現できることがわかった。1)平地に孤立する山、2)山地へ移行する平野の縁にある姿の良い山、3)回廊状の谷地形の焦点にある山、4)水面の向うにある姿の良い山、5)ランドマ-クになる山への見えがくれによる接近、6)屏風のようにパノラマを成す山々へ向かって平地の道路が接近してゆくとき。 前述のように要約できた地形構造の特徴を基本に、印象に残る名風景について現地調査を行なっているわけであるが、現段階では次のような2つの特徴を仮説的に挙げることができた。1)印象に残る名風景の多くは、前述の地形構造の特徴を複合して持っている。2)地形的構造線(例えば平地の縁など)をランドマ-クが強調している。 また、移動する事を前提とした空間認識(景観認識)が我が国でどの様に扱われてきたかについても検討を行なった。まず、過去の移動を中心とした体験(八景、巡礼等)、絵地図、日本庭園を調べることにより、日本古来の移動を前提とした風景体験(国土空間体験)において、周遊的な視点(移動する視点)の重要性とその文化的一般性について確認することができた。移動する視点(交通路)からの国土の認識を探る為、東海道を対象とし、その風景や空間認識を表現しており、既に集団表象と考えられる安藤広重の東海道五十三次を用いて分析を行なった。その結果、交通路全体としての認識の他、分節化して認識していること、その分節化の要因として、従来の景観的要因(シ-クエンス等)以外に身体感覚的な接続が大きな役割を果しており、移動を伴う場合その風景体験や空間体験を豊かにする為には身体感覚が重要であることがわかった。
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