本研究は、江戸時代に多く刊行された家相書に見る方位の意味ずけが、どのような背景のもとに成立したのかを分析し、その系統と各展開過程を明らかにしたうえで、さらにそれらを生み出す機縁となった中国や朝鮮半島における方位思想の原典との関係、またそれが日本に導入されての陰陽道の展開などとのかかわりを考究しようとするものである。これはまた、庭園を造る際の禁忌とも深いかかわりをもつもので、庭園書も同じく考察の対象となる。最終的にはこれらを綜合することによって、伝統的な方位の思想と禁忌が、この風土に根づいて来た歴史を明らかにすることを目標としている。本年度は、主に資料の収集とデ-タの作製作業を行なった。江戸時代の家相書をなるべく多く購入し揃えようと、可能な限りのものは入手したが、なお各図書館や研究所に所蔵されているものについては複写によって資料整備を行なった。当初カ-ド化等にアルバイトを導入する積りであったが、これを自分達で行ない、また資料を送附してもらうことなどで旅費も節約出来たので、謝金と旅費に予定していた費用で、今年度研究をすすめていくうえでどうしても必要と考えるに至った『道蔵』と『群費類従』の購入を行なった。これらには方位思想の研究にかかせない内容が多く含まれている。現在予定通りこれら文献の分析を進めており、とくに方位と禁忌の問題については、各デ-タを抜き出し、カ-ド化の作業を進めている。江戸時代の家相書については、成立年代の判明しているもののリスト化をし、また著編者の明らかなものは著編者別に分類して内容の変遷を見ている。平成3年度には、方位思想及び禁忌の展開過程についての枠組みを明らかにし、本研究としての最終的な結論を導き出す予定である。
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