平成2年度はヒトを対象とした頸動脈洞非観血的刺激装置を開発し、その利用法を主に検討した。開発した装置は高圧受容器の所在する頸動脈領に0から100mmHgの陰圧刺激を随意に加えられ物理的にその局所を伸展させられ、また加えた陰圧を随意に維持できるので頸動脈領のある伸展状態をある時間持続できる装置である。この装置を用い頸動脈領の伸展を維持し、高圧受容器の機能を固定化した状態で下肢陰圧装置により下肢血流Suctionを作り出せば、静脈還流量の減少に伴う中心血液量の減少が心肺部位に所在する低圧受容器を刺激するため、血圧を維持しようとする低圧受容器の機能を調べることは可能である。そこで、高圧受容器と低圧受容器の血圧調節システムにおけるそれぞれの役割を知るため、下肢を下肢陰圧ボックスに位置した仰臥位姿勢で安静を保った後、1)多段階的下肢陰圧漸増負荷、2)多段階的頸動脈領陰圧漸増負荷、3)ある一定の頸動脈領陰圧下で多段階的下肢陰圧漸増負荷の各最中の心臓血管系応答を検討した。その結果、この負荷法は期待され生理的応答を引き出し、また高圧受容器が収縮期血圧の、低圧受容器が拡張期血圧の調節に関係するような示唆を与えた。例えば、この方法を用い、二親等内に高血圧者がいるが血圧は正常な若年者(素因保有者)と血圧が正常な一般的若年者(正常者)、さらに前者を多段階負荷法による自転車運動中収縮期血圧が軽い運動時点から急速に上昇する者(素因保有昇圧者)と運動強度に応じて漸増する者(素因保有正常圧者)とに被験者を分け心臓血管系応答を調べた結果、素因保有昇圧者は素因保有正常圧者に比較し最大酸素摂取量が劣り、また両保有群は正常群より起立性循環調節耐容能が低く、一定頸動脈領陰圧下で漸増的下肢血液Suction刺激に対し拡張期血圧が急上昇する傾向を示した。高血圧遺伝素因が心肺部位にある低圧受容器の機能と関係するように示唆された。
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