研究概要 |
本年度は,津山洋学資料館,早稲田大学図書館,武田薬品杏雨書屋,静嘉堂文庫,茨城大学図書館などを中心に,宇田川榕菴関係稿本ならびに関連資料の調査を行い,その整理をすすめた。 本年度の大きな成果は,宇田川榕菴の仕事が,祖父宇田川槐園(玄随・晉)の仕事の発展として行なわれたものであることが,これまで以上に明確に判明してきたことである。宇田川槐園は従来,儒医から蘭医に転じ,杉田玄白・中川淳庵・大槻玄沢らと交わり,桂川甫園のすすめで,日本最初の内科(西洋)薬『西説内科撰要』を刊行したことで知られており,その他のことはあまり研究されて来なかった。ところが,榕菴との関係を調べるうちに,宇田川槐園が,榕菴の仕事の原形をつくっていること,すなわち,西洋薬のこと,植物・動物,鉱物のこと,化学(製錬術),さらには物理実験に関することにも,関心をもち,実際に記録を残していることがわか った。 例えば,『蘭畝俶載』にはリュクトポムプ(真空ポンプ)の実験の観察記録があり,『遠西名物考』『遠西薬経』には,西洋薬のことが書かれ,その書き方,その表題からしてのちの玄真・榕菴による『遠西医方名物考』『和蘭薬鏡』を思わせる。榕菴が高い関心を示した諸薬品の名がすでに見える。 それにしても,儒医槐園がいかにして蘭医に転じたかを調べるなかで,恐らく,西洋薬に日本にある和漢薬よりすぐれたものがあることがきっかけではないかと筆者は思うようになり,初期物産会の記録『薬品会記』(天明〜〜4年)を見つけることもできた。槐園の人物像も解析できた。 語学の学習,文法の解析についてもすぐれていることがわかった。そこで,榕菴と併行して槐園の稿本類についてもすべてあたってみることにし,それをすすめている。上記の他,『宇氏秘笈』『遠西草木略』『槐園叢書』『九〓俶載』『新撰局方標目』『名彙』等を検討した。
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