本研究は、大きく2つに分かれている。第1は、「空間的対象物に対する文化的感性と認知の発達についての日仏比較研究」である。この研究の主要目的は、「異なった文化は子どもの中に異なった感性と認知をつくりあげる」という仮説を検証するものであった。日仏の小3・5、および中1の子どもが、幾何学的図形、花瓶、建築物の(1)好感度、(2)美感度、(3)風変わり度、(4)落ち着き度を判断した。その結果、日本のこどもは(1)、(3)、(4)において、特定の対象物に集中する傾向が高かった。また直線的な均斉とかバランスを好み、美しいと感ずるのに対し、フランスのこどもは複雑で不規則な図形にそれを感じる傾向が強かった。また、4つのそれぞれの感性間の独立の程度は、日本の子どもの方がかなり大きかった。別に得られた両国間の感性と認知の違いに基づいて、日仏のこどもの創造性について議論がなされた。第2の研究は、「空間図形の認知発達に関する日仏比較研究」である。両国の小6、中2、高2、の子どもと、日本の小4の子どもが、3種類の空間図形に関する問題を解いた。それらは(1)5つの立方体からなる3次元立体を2次元の平面図で表現する問題、(2)さまざまに回転した立体図形が、原図形と同じものかどうかを判断する問題、(3)ある種の制限の基に、5つのサイコロを組み合わせて立体図形をつくる問題であった。(1)の問題に関しては、両国の子どもは、ある種の規約に従って3次元の情報を2次元の平面図で表現する力は年齢とともに、順調に伸びていた。しかし、対象物への視点を変えることによって、問題を解決するという解決法は、日本では5.2%の子どもに見られたが、フランスでは0%であった。(2)の問題は、両国間にあまり差がなかった。(3)の問題は、フランスの子どもには、非常に難しかった。その原因は、遊び等でサイコロを使う機会が限られていることによると考察された。
|