研究概要 |
本研究が始まる時期は、九大で計画し、開発してきてSi Ball(荷電粒子多重度測定器)が一応完成したが、いくらかの改良の必要を感じている頃であった。本研究においては、このSi Ballの改良とそれをNORDBALLと同時使用することにより、質量数=80ー90に位置する新しい変形核領域における研究を飛躍的に進めることが出来た。この結果として、 ^<87>MO, ^<87>NB, ^<85>Nb, ^<82>Y, ^<82>Zr, ^<82>Srについて、新しい順位構造が確立され、その詳しい解析が進められている。 この原子核領域では、N=40、Z=40に向かって核子数を変えると大きなProlate変形(β=0.4)に向かって原子核が変形して行く。N=46近傍で原子核は球形から変形へ転移し、またN=45,46近傍では基底状態付近の弱い変形が原子核の高速回転によって強い変形へ移行することが確かめられつつある。実験によって明らかにされたこれらの性質は、Total potential energy surfaceの理論計算による安定形状の解析やCranking modelによる軌道エネルギ-の回転周波数依存性等からの推論と比較して検討されている。 以上の他に、Si Ballの反応チャンネルを同定し選択する能力はヨ-ロッパの多くの研究者から注目され、我々が主として研究しているA=80ー90以上の領域でもSi Ballは広く活躍した。Xe,Ba,Cs領域の中性子不足核、質量数=90ー100の変形した中重核、Fe,NiにおけるN=Z近傍の球形核における特異な変形状態、 ^<100>Sn核の探索等の研究において、北欧を中心とする国々の研究者との共同研究が行われ多くの幅広い成果が挙げられつつある。九州大学タンデム実験室では、これらの共同実験と平行して、相補的なA=80ー90の原子核の低い励起状態と基底状態の解明を目標として精力的に研究が進められ、多くの成果が得られている。中性子不足核領域に於ける新同位元素の系統的な発見を含むこれらの研究は、得られた結果が高スピン状態の研究に対する基礎を与えるだけでなく、的確な研究計画を導き、より先進的な研究方法と観測手段、デ-タ処理方法の開発を促した。
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