研究概要 |
本研究の目的は、有機低次元導体の電気伝導と磁性に果たす、遷移金属d電子の役割を実験的に解明することである。本年度はDCNQIーCu塩を対象とし、電気伝導率,静磁化率,格子定数,X線光電子分光および比熱測定によって、この物質の基本的性質を明らかにした。 (1)Cuイオンの価数について 従来から、Cuが平均として4/3価の価数をもつことを間接的に明らかにしてきたが、X線光電子分光法によって、このことを一層直接的に確めることができた。したがって、一部で指摘されていた、表面酸化によるCu2価イオンの生成の可能性は否定できる。 (2)リエントランスについて (DMODCNQI)_2Cuでは8Kbar程度の圧力下で、(DMDCNQI)_2Cuでは50bar程度で、温度降下に際して、金属相→絶縁相→金属相というリエントランスが生じる。また、DMDCNQIの一部をMeBrDCNQIに置換した合金系でも、類似の現象が現れる。これらの物質での電気抵抗や比熱の測定によって、この系を電子の有効質量が重くなった「高濃度近藤系」とみなしうることを指摘した。 (3)(DMDCNQI)_2Cuの常圧下の状態について 静磁化率が100K以下で異常に増大するとともに、格子定数から推定したCuイオンのボンド角がこれにともなって増大することを発見した。この物質はわずか50bar程度の圧力で絶縁相に入るので、この実験結果は、常圧の金属相ですでに絶縁相の影響が現れ始めていることを示唆する。
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