本年は電気流体力学的不安定性(EHD)における第一不安定点近傍の安定性ダイヤグラム(ブッセダイヤグラム)およびロ-ル状対流が不安定となった後の欠陥カオスの統計的性質と発生機構について研究を行った。その結果次の様な事が明らかとなった。(1)EHDにおける詳細な安定性ダイヤグラムが得られ、エクハス、ジグザグ(オブリク)、スキュドバリコ-スの各下安定領域が求められた。各境界を決定する安定線が得られ、それらは中立安定中心点に対して非対称であった。これは最近のモデル方程式より求められた安定ダイヤグラムとよい一致を示す。(2)非常におおきなアスペクト比(〜1000)の容器では欠陥カオス(弱い乱流)が最初の不安定点(ロ-ル対流発生点)から電界を次第に増すと安定ダイヤグラムのジグザグ不安定点を横切る電界で発生する。これはアスペクト比が大きいためにジグザグ、オブリク等が安定に存在できないかあるいは安定領域が極めて狭いために直ちに欠陥カオスが発生するものと理解される。事実アスペクト比が極めて小さい場合かあるいは磁場等の外力によって不安定化を抑えると安定かつ定常的なジグザグ、オブリクパタ-ンを経て欠陥乱流が発生することが観測された。(3)欠陥乱流の統計的性質は大きなアスペクト比と小さなものとでは大きく異なる。大きな場合には欠陥乱流は欠陥密度に依存して二つの異なった統計的性質(欠陥乱流)を示す。すなわち発生点近傍では1/f型スペクトルを持つ欠陥密度変化を示すが、遠ざかると白色スペクトルとなる。同時に欠陥密度の電界依存性も変わる。小さいアスペクト比では一つのタイプの欠陥乱流のみが観測される。これらは欠陥間の相互作用と境界壁との相互作用の存否が欠陥形成(すなわち欠陥乱流の型)に重要な役割を演じていることを示唆している。(4)乱流一乱流転移発見し、その転移が不完全熊手分岐に近い性質を持つことが分かった。
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