今年度は、鉄ー3%珪素の完全結晶を試料に用いて以下に述べるような研究を行った。 1)中性子トポグラフによる磁区の観察 鉄ー3%珪素結晶(以下試料結晶と略す)の(220)反射を用いて中性子のトポグラフ写真を撮影した。写真乾板としては、ガドリニウム箔を裏面に密着させた歯科診断用の高感度X線フィルムを使用した。トポグラフ写真には、磁壁部分が強い回折強度を与える白い線として、明瞭に記録された。磁壁の白線は、結晶の一端から他の一端まで途切れることなく続いており、試料結晶の内部が極めて大きな磁区に分割されているということがわかった。この結果は、中性子トポグラフ法を物質内部の磁気的な構造を探る有力な手段であることを示している。 2)鉄ー3%珪素結晶による磁気複屈折 1)の項で述べたように、我々が試料として用いた試料結晶は大面積の磁区構造を持っているので、外部磁場を与えなくても磁気複屈折が起こる。そこで試料結晶を、干渉計中の二つの光路をまたぐように挿入した状態で、アルミニウムの位相板を回転させて振動曲線を測定する実験を行った。試料結晶と干渉計の刃のなす角度を順次変化させて行くと、試料結晶の内部磁化方向に対してスピンが平行な中性子と反平行な中性子の位相差が変化していき、曲線の振幅と位相が変調を受ける。この変調を解析することによって、鉄ー3%珪素の核散乱振幅と前方磁気散乱振幅を同時に求めることに成功した。またこれらの値が、他の方法で求められた値とよく一致することも確認した。
|