研究概要 |
1.南部北上帯西縁部に分布する松ヶ平・母体変成岩類の年代,上位の古生層との関係の解明および古生層の層序の検討については以下の成果がえられた. 1)母体変成岩類を含む松ヶ平・母体変成岩類の放射年代測定はすでに昨年度に行われたが,得られた年代値についてその地質学的解釈を含め報告した.相馬地域の角閃岩は232Maおよび495Ma,長坂地域のものは479Maおよび524Maであるが,232Maの年代はおそらく変質などによる若返り年代と思われる.その他の3試料の年代は誤差範囲内にあり,カンブリア紀後期〜オルドビス紀前期に相当する.この年代値は,これらを含む松ヶ平・母体変成岩類が上部デボン系に不整合に覆われるという層位学的事実と調和的である. 2)母体変成岩類と上位のデボン系鳶ヶ森層との関係について,野外における詳細な地質調査を行なった.両者が本来不整合関係にあったであろうことはすでに報告しているが(永広・大上,1991),現在の両者の関係は,いずれの地域においても断層関係にあり,南北方向の垂直にちかい高角断層によって両者や母体変成岩類(広義)のいろいろな岩相が数m〜数100mの幅で繰り返し露出していることがわかった.したがって,母体変成岩類がジュラ系の変成相であり,鳶ケ森層を含む南部北上帯の中・古生層がその上にのるクリッペであるという最近のいくつかの考えは支持できないことがますます明かとなった.東北日本の構造帯区分に重要な意味をもつこの南部北上帯クリッペ(ナップ)説の検討結果は公表途上(永広・大上,投稿中ー受理済み)にある. 2.南部北上帯西縁部の古生界,とくに鳶ヶ森層の層位学的検討も,前記の母体変成岩類との関係の検討とともに進行しており,鳶ヶ森層の詳しい層序と地質構造が明かになりつつある.また,構造帯区分の基準の一部となる砂岩組成の検討が,南部北上帯・早池峰構造帯に隣接する.葛巻ー釜石帯やその東方の安家ー田野畑帯において行われ,葛巻ー釜石帯と安家ー田野畑帯の区分の妥当性が確認されるとともに,この両帯境界が西南北海道にまで延長されることがわかった(大上・越谷・永広,投稿中ー受理済み).
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