本年度は高圧下での実験に用いるヒ-タ-の改良を行なうとともに、CMAS系の溶融関係を明らかにするための実験を10GPaまでの高圧下で行なった。本年度のグラファイトヒ-タ-の設計変更により、試料部分を1mmの厚みにとどめれば、内部の温度勾配を10℃以下に抑えることができるようになり、計測された温度と実際の試料温度との差をほぼ無視できる程度に改良された。このヒ-タ-を用いて高圧実験では特に6GPaでカンラン石、輝石、ガ-ネットと共存する液組成(invariant point)の決定に重点をおいた。実験に先立って、これまでの他の研究者による実験も含めて検討した結果からの圧力でのinvariant pointの化学組成を予想し、この組成に近い出発試料を5種類作成した。これら出発試料それぞれの溶融関係を明らかにしたうえで、chemographicな手法によりinvariant pointの液組成を絞り込んだ。この結果、地球史初期のArchean時代に特徴的にみられるコマチアイトマグマの少なくとも一部は、マントル物質の6GPa付近の圧力下での部分溶融によって生成しうる事が明らかになった。この研究に際して、特に留意した点は出発試料の状態である。完全なガラス試料を使用した場合には実験後の結晶が小さすぎてEPMAなどの分析には適さないが、微晶質の出発試料を用いたときには比較的粒径の大きい結晶が得られ、分析が可能となった。このような、出発試料のキャラクタリゼ-ションには今年度購入したX線発生装置が重要な役割を果たした。更に来年度に予定しているより高圧での実験に備えてランタンクロマイトのヒ-タ-を改良し温度勾配を少なくする実験も行なった。これによって、15GPa程度の圧力までは比較的温度勾配の小さいヒ-タ-が使用できるようになった。
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