研究概要 |
炭素繊維強化複合材料は,比強度に優れ,しかもテイラリング可能な高強度機能材料であるが,高度に不均一かつ異方的な微細構造のため,その変形と損傷・破壊機構は極めて複雑である。本研究は,この問題を損傷力学的な観点から取扱い,非弾性変形機構・損傷発生・発展機構を明らかにした。本年度の成果をまとめると,1)疲労試験の途中で負荷条件を変化させ,負荷履歴依存性を明らかとした。結果の一例として,高応力レベルの繰返し負荷によってマトリックスのひずみ硬化が顕著となり,後続の低レベルの負荷の影響はほとんど認められない。一方,先行する低レベル繰返し負荷によってひずみ硬化は徐々に進行し,後続の高レベル負荷によって主に損傷が発生・発達するなど負荷履歴の疲労寿命に及ぼす影響は大きい。2)引張・圧縮繰返し負荷によって特異な応力ーひずみヒステリシスを示す。これらの関係を弾塑性および粘弾性から検討し,負荷初期に現われるひずみ硬化現象とサイクリッククリープ等の時間に依存する現象に分けて考える必要のあることを明らかにした。3)時間依存の現象は,さらに,粘弾性的挙動と繰返し負荷に伴う損傷の発生・発展による不可逆な現象に分けて考えるべきであり,これらの損傷を顕微鏡観察によって明らかとした。また,材料内部で生ずる損傷の種類,例えばマトリックスき裂と層間はく離によって,巨視的力学特性に対する影響が全く異ることを明らかにした。4)以上の結果を踏まえて,繰返し負荷過程における材料の内部状態を表す損傷変数は,損傷の種類によって別個に定める必要があり,これらは顕微鏡観察あるいはAE計測等による具体的な内部損傷状態によって決定し得ることを明らかとした。
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