現在の超精密切削の基本概念は、「極めて運動精度の優れた工作機械で、極めて切れ味のよい工具を用いて、極めて被削性のよい加工物表面に工具形状を転写する」という加工機械の運動転写原理に従っている。しかし、現状の超精密工作機械の運動精度は非常に優れているものでも10nm程度であり、これを改善することが困難な状況にある。そこで、前加工面に倣いながら、しかも前加工面よりも優れた加工面を得るために、圧力転写方式で単刃切削の加工法を提案した。すなわち、具体的には磁気ディスクドライブ装置の浮動スライダに切れ味のよい工具(切刃)を取りつければ、スライダは前加工面に倣いながら移動し、切刃の突き出し量と浮上すきまとの差が切込み量となる。この際、浮上すきまは動圧とスライダの面積により決定されるため、加工物の回転速度やスライダの押し付け荷重を調整することにより、変化させることが可能である。この加工法の特徴は、(1)切刃先端が粗さの山と谷の中間にくるように設定することにより、スライダの面積分の平均化効果により、粗さの山部のみを削り取ることが可能で、粗さを向上することができる。(2)スライダは前加工面に倣いながら上下するが、波長の短い周波数の高いうねり成分に対しては追従しきれずに、切込み量が増加する。この現象を利用すれば、うねりの向上を図ることができる。 本年度は、この加工方法の加工メカニズムの検討を行い、上記の山部のみが切削されるトランケ-ションが、1〜2μmRmaxの粗仕上げ面のみならず50nmRmax程度の超精密仕上げ面についても生じることが確認された。さらにうねり成分についても向上する可能性があることが確められた。今後、この加工法の制御性を高めることについて検討を行うと共に加工限界について明確にする予定である。
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