研究概要 |
低地球軌道におけるトライボロジ-は5eVの運動エネルギ-を有する原子状酸素の影響によって,大気あるいは超高真空中と大きく異なる。グランドベ-スでこの環境を現出させるため,高速分子線バルブからパルス状に導入した酸素を高出力Xeア-クフラッシュ励起によって原子状酸素に変換する方式を考案した。タ-ボモレキュラポンプの主排気により原子状酸素発生装置は10^<-7>Paのベ-ス圧力を有し,高速分子線バルブから任意の制御量で酸素ガスを流入させることができる。サファイヤビュ-ポ-トから石英ソニックノズルのスロ-ト部に顕微鏡レンズを用いて絞ったXeア-クフラッシュ光を照射し,酸素分子を原子状酸素に変換することができた。石英ソニックスノズルの形状に関する最適設計には当初ス-パ-コンピュ-タを予定していたが,研究室のワ-クステ-ションを用いて,開き角20〜25度,長さ約200mmと設定できた。スペクトロメイト分光器により,約777nmの波長に原子状酸素の発光ピ-クが確認できた。原子状酸素の運動エネルギ-は真空絶縁破壊を応用した測定で3.5〜6eVの分布を有することが明らかにされた。5eVで半価幅の小さい原子状酸素ビ-ムを得るには最終的な最適化が必要であるが,イオンビ-ム法を除けば上記の値は現在までに報告されているエネルギ-値としては最も低地球軌道上のものに近い。固体潤滑剤であるグラファイト及び二硫化モリブデンに原子状酸素を照射し,AES及びXPSを用いて分析を行ったところ,CーKLLのショルダの消失からグラファイト構造の破壊と,SO_2の存在からMoS_2の著しい酸化が認められた。原子状酸素のアタックによって固体潤滑剤表面は著しく乱されることが判り,スペ-スでのトライボロジ-特性を良好に保つためには極薄膜コ-ティングも含めて,さらなる表面の化学的不活性化が必要となると思われる。
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