研究概要 |
平成2年度の研究でプロトタイプが完成した高速パルス原子状酸素発生装置の性能を向上させ,原子状酸素ビ-ムのエネルギ-を低地球軌道上の値である5eVとするとともに,30eVまで可変できるよう改良を加えた。また,フラックスも10^<16> atoms/m^2s以上を得ることができたので,当初の目標である低地球軌道上(500km前後)の原子状酸素環境シミュレ-タ-として世界に例を見ない実験装置として仕上げることができた。本年度は酸素プラズマを発生させるためのヘリウムシ-ドを一切使用せず,純原子状酸素ビ-ムを得た。クセノンア-クフラシュ光によるガスブレ-クダウンに加え,小型YAGレ-ザ-を補助光源として使用することによってこのブレ-クダウンの作動を確実にしたことが原因の1つとして挙げられる。また,フラックスの同定には超高感度水晶振動子マイクロバランス法による銀薄膜の酸化現象を応用し,その高精度検出を実現した。スペ-ストライボロジ-に使用されている二硫化モリブデンは原子状酸素によってSO及びSO_2として硫黄が脱離した後Mo酸化物が形成されることがXPSを用いた分析から明らかとなった。このため,摩擦係数は0.2に近い値まで上昇することがある。HOPGグラファイトもCーO及びC=Oボンドが多数発生し,その反応が進行するとカルボキシル基が生成されることが同じくXPSによって解析された。このように固体潤滑剤は激しい性能の劣化が見られるため,低地球軌道上の使用は有望とは考えられない。宇宙機器材料として最も多用されるカプトンも原子状酸素によって著しい構造の変化が見られ,(CO)_2N及びケトン基の減少が顕著であった。以上の研究成果にはNASAのSTS実験においても得られていない結果も含まれており,完成した原子状酸素発生装置も用いてさらに照射実験を行えば,スペ-ストライボロジ-設計の最適化に迫るものと考えられる。
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