本研究では、超電導磁石のクエンチといった異常時に対処するために過大な定常的安定化を施さず、超電導導体の常電導遷移時のみ冷却流路に電場を印加して冷却材の熱伝達を局所的・過渡的に促進することにより冷却安定性の向上を図る方法を提案し、その基礎となる導体温度テイクオフ条件の把握と、それに対する電場の効果を調べた。即ち、まず、超電導磁石における導体冷却安定性と基本的に関わる自然循環流路における定常限界熱流束特性を、流路隙間をパラメ-タとして検討した。その結果として、ある流路隙間における液体窒素およびヘリウムの限界熱流束は、これまで水やフロン等で得られてきた相関式により予測される値より顕著に高いことを示し、こうした寒剤に適用できる相関式を導出した。次に、熱擾乱印加時における導体冷却安定性、あるいは高安定かつコンパクトな磁石を実現する臨界電流マ-ジン安定化などと関連する導体温度テイクオフ条件のモデル化に取り組んだ。構築されたモデルは、定常限界熱流束に関して提案され実証性の高いマクロ液膜モデルを擾乱印加時の温度テイクオフ状況に拡張したものであり、このモデルにより液体ヘリウムおよび水といった物性の大きく異なる液体における温度テイクオフ条件が予測できることを示した。また、本モデルと既存代表モデルとを比較し、既存モデルでは近い将来高温超電導導体の冷却材として使用が見込まれる液体窒素の温度テイクオフ条件を過大に見積もることを示した。最後に、自然循環流路における限界熱流束に対する電場の効果を実験的に調べ、本研究で提案した電場を利用したアクティブ制御による超電導導体の冷却安定性の向上への糸口が得られた。
|