本年度は、昨年度に引き続き、交流用の導体構成として不可欠となる撚線構造の導体における高速常電導伝播現象の解明のための検討を中心に実験と有限要素法による解析を行ってきた。その成果の一つとして、常電導転移初期の急激な電流変化に対するクエンチ電流の低下現象が、その後の常電導伝播特性に大きく影響を与えていることがわかった。そこで、線径やマトリクス比の異なる素線試料を用いて、通電電流の変化率とクエンチ電流の関係を調べた。その結果、数千A/秒の変化率を越えるとクエンチ電流の低下が始まり、低下の割合は印加磁界の低い場合ほど大きいことが明らかとなった。この原因を探るため、自己磁界による損失と素線内部の温度分布変化を考慮した解析を試みているが、今のところ実験で得られたような大きな低下現象を示す結果は得られていない。自己磁界損失以外に温度上昇をもたらす原因があると考え、現在、素線内部への磁界の拡散現象を考慮に入れた検討を行っている。クエンチ電流の低下の影響が現れる他の実用上の問題として、磁気浮上用超電導コイルシステムに用いられる並列接続された永久電流スイッチの不安定性についての検討を行ない、安定性マ-ジンに関する新たな指針を与えることができた。超電導巻線の冷却特性を含めた過渡安定性に関する検討として、三次元有限要素法解析プログラムを作成し、最小クエンチエネルギ-や線材の最高到達温度などを、エポキシ樹脂を含浸した場合としない場合について計算し、擾乱の位置や構成材料の熱特性等の影響を調べた。この結果は、臨界電流マ-ジンに関する評価基準を決定するために役立つものと考える。本研究ではリニア誘導機を取り上げ、実機における超電導巻線の不安定性に関する検討を最終的に行っていく予定であるが、この場合の巻線が経験する磁界の解析を行うための計算機コ-ドの開発を完了し、銅巻線のモデルの解析を行い良好な結果を得た。
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