演繹的推論機能を越える高次人工知能機能を導入することによって、現在の知識ベ-ス・システムの能力の幅を拡大するため、不完全な知識の操作を基底技術と考える観点から研究、開発を行った。具体的には、不完全な知識を仮説として扱う論理に基づく仮説推論システムを出発点に設定して研究を遂行した。仮説推論はその理論的な基盤性と、診断や設計といった問題に適用できるといった実用性の両面で今後の知識処理の有力な枠組みであるが、不完全な知識に起因して非単調推論が必要となり、低い推論速度の克服が最大の課題である。そこで、仮説推論の高速化を重点課題にして研究を行い、次に成果を得た。 第1は推論パスネットワ-クによる高速仮説推論法であり、仮説間の矛盾によって生じるバックトラックを回避することにより大幅な速度向上を達成している。また変数を含む述語論理表現の仮説推論に適用できる同様な高速推論法も開発した。仮説推論を始めようとする非単調推論の計算複雑度はNPー完全であり、最悪値で指数オ-ダとなる推論時間の壁は、通常の探索による求解の範囲に留まっていたのでは克服できない。本研究ではこの指数オ-ダの壁を克服する手法として、類推による高速仮説推論法、経験に基づく学習による仮説推論の高速化法、発想的知識生成のための論理知識ベ-スのコンピイル法、0ー1整数計画法の利用による高速最適解計算の仮条推論法を考察し、具体化した。類推は過去の類似する求解の成功例を利用する。経験に基づく学習は、推論の経験を知識として定着させ以後の推論の高速化に活用する。知識ベ-ス・コンパイルの基本的考え方は、通常の推論はゴ-ルが与えられてから開始されるのに対し、ゴ-ルが与えられる以前に可能な推論は行ってしまうものであり、ここでは論理知識表現のPrime Implicateへの高速変換法を与えている。整数計画法の利用では近似解法の有効性を明らかにしている。
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