研究概要 |
今年度は3年間の本研究課題のまとめの年に当る. 今年度は昨年度までの研究成果に基づき,言語学,計算機科学の両観点からの分析的研究をさらに進め,語の機能に着目した談話理解モデルの拡充とシステムの作成を行い,機能を検証した.これにより談話理解の基本的問題を解決,検証した.以下に今年度得られた研究成果の概要を述べる. ・日本語の格助詞「を」には,目的語を示すもの(対格の「を」),移動場所を示すもの(移動格の「を」)の他,動作の状況を表すもの(状況の「を」)がある.このうち,状況の「を」と移動格の「を」については区別して考える必要がなく,状況の「を」は移動格の「を」の一種であることを示した. ・並列構造の被並列句の範囲は曖昧である場合が多い.そこで並列構造の制限が特徴的である法律文に着目し,法律文の基本構造と並列構造の調査,分析を行い,法律文言語モデルを構築した.さらにこの言語モデルに基づく実験システムを作成し,並列構造の同定機能の検証を行った. ・質問文への自然な応答のためには,質問者が何について尋ねているのかを正しく捉え,協調的に返答する必要がある.本研究は,何について尋ねているのか,何を答えるべきかを表層的処理により推定するために,確率的処理を行う協調的対話モデルを提案し,その機能を小規模な実験システムにより検証した. ・情報のなわ張り理論の考えに基づき,対立的対話の場に加え,融合的対話の場の扱いも可能とする対話の場のモデルを提案した.また,指示詞の参照情報に対しての規定を,言語学的視点から厳密化,再規定を行い,それに基づき指示詞同定アルゴリズムを作成,机上実験による検証を行った.
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