研究概要 |
網膜電位(Electroretinogram:ERG)は,臨床眼科における診断に応用されているが,従来はフラッシュや視覚パタ-ンを用いた網膜全野刺激であるため,網膜部位によるERGの差異を知ることができなかった。そこで,本研究では発光ダイオ-ド(LED)刺激によって局部的ERGを計測し,時系列デ-タ解析法を適用して網膜電位の発生過程を解析する. 微小ERG計測システムを作成した.LEDを視覚系の時間特性より遥かに高い周波数(1KHz以上)で点滅させれば,ERGはその平均輝度に対して発生する.したがって,点滅のduty cycleをコンピュ-タによって制御すれば,極めて正確な刺激光を発生できる.LED光は光ファイバによって暗室のシ-ルド内に導入し,微小ERGはコンタクトレンズ電極により検出し,増幅後A/D変換器を介してコンピュ-タに取込み解析した.LED刺激は微弱で検出が困難であるので,ランダム刺激による応答を計測し,刺激の自己相関スペクトルと,刺激ーERG間の相互相関スペクトルとの比より微小ERGの周波数特性を求める相関分析の手法を適用した.また,正弦波刺激法の結果とも比較し,ランダム刺激法により簡便に微小ERGが計測できることを確認した.なお,計測結果に基づき増幅回路の改良を行ない,精度向上を図った.微小ERGは,とくに高周波領域で減衰するので,微小ERGのほぼ逆特性をもつ微分回路を挿入し,計算機に取り込んだ後に補正する方法を採った. 網膜の中心部と周辺部では視細胞の構成が異なり,視力,色覚,視覚認知機能に差異がある.そこで網膜水平軸上の各部位について赤色LED(660nm)を用いて刺激し,最小自乗法によって各部位の動的パラメ-タを推定した.動的パラメ-タは網膜部位により一定傾向をもって変化することが判明したが,この結果は,とくに盲点において不連続的な変化が認められるので信頼できると考える.
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