研究概要 |
網膜電位(Electroretinogram:ERG)は,光刺激に対して網膜細胞層から発生する電気現象で,臨床眼科における診断に応用されている.しかし,フラッシュや視覚パターンを用いた網膜全野刺激であるため,網膜部位によるERGの差異を知ることが困難であった.そこで,発光ダイオード(LED)によって局部的に網膜を刺激し,発生するERGに時系列データ解析法を適用して網膜電位の発生過程を解析することを目的として研究を行った。 前年度までの研究により微小網膜電位にはフラッシュERGの波形成分(a波,b波,c波,OP波)とほぼ同一周波数成分をもつ波形成分が含まれていることが確かめられた.すなわち,フラッシュERGは,網膜各部位から発生する微小ERGを総合した電位と考えられる.しかし,網膜各部位の微小網膜電位の単純な加算か,網膜部位間での複雑な相互干渉を受けた結果であるか解明されていない, そこで,本年度は網膜の2箇所を同時に刺激した場合のERGと,それぞれの部位を単独で刺激した場合のERGとを比較して,ERGの空間加算性について解析した.すなわち,まずランダム刺激によって網膜中心部および周辺部をそれぞれ単独刺激した場合と,同時刺激した場合の微小ERGの周波数応答を求める.つぎに,単独刺激時の2つの応答を最小2乗推定法によって解析し,微小ERGを構成する成分波形を分離する.一方,同時刺激時の応答はこの成分波形の重み付き線形和(正ならば促進性,負ならば抑制性)であると仮定し,計測結果に最良近似する重み係数を最小2乗推定する.以上の手順で得られた重み係数より2部位間の干渉状況を解析した.その結果,2部位間の干渉性は抑制性である場合が多く,また干渉に要する時間は無視できる程度に小さいことが示唆された.
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