研究概要 |
網膜電位(Electroretinogram:ERG)は,臨床眼科における診断情報に活用されている.しかし,フラッシュを用いた網膜全野刺激であるため,網膜部位の活動を知ることが困難であった. そこで,本研究では局部微小網膜電位の周波数特性を解析するために発光ダイオード(LED)刺激を用いた新しい計測法を提案した.この手法の利点はコンピュータ制御された波形で局部刺激することにより,線形システム解析の適用が可能になることである. 平成2年度には正弦波刺激に同期して発生するERGをフーリエ解析する方法とランダム刺激を用いた相関解析法とを比較した.両手法による解析結果はほぼ一致し,実験手順を簡単化する上から相関解析法がより有効であることが分かった. 平成3年度には網膜の水平軸上を赤色とオレンジ色のLEDを用いてランダム刺激した場合に発生するERGを相関解析手法により解析した.また5個の2次伝達関数から成るERG発生機構モデルに最小2乗推定法を適用して微小網膜電位の成分分析を行った.この結果,微小網膜電位にはフラッシュERGの波形成分(a波,b波,c波,OP波)とほぼ同一の周波数成分が含まれていることが確かめられた.すなわち,フラッシュERGは,微小網膜電位を総合した電位と考えられる. 平成4年度には,網膜の2箇所から発生する微小網膜電位の相互干渉性について解析した.2つのLEDを用いて網膜中心部と周辺部をそれぞれ単独で刺激した場合と同時に刺激した場合の微小網膜電位を比較した.また,同時刺激による網膜電位には単独刺激した場合と同じ波形成分が含まれていると仮定して実験結果を最小自乗法を用いて解析した.その結果,微小網膜電位は抑制的に干渉しており,干渉に要する時間は無視できる程小さいことが分かった.
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