係留された浮遊式大型海洋構造物あるいはシーアンカー付の救命いかだが風、波、潮流中で転覆し多くの人命が失われた事故例が契機となり、世界的にこれらの浮体に対する安全の基準づくりが進められるようになった。しかしいずれの場合も、浮体の転覆機構が不明なまま安全基準づくりが進められているのが実状である。大型海洋構造物では残存復原性にある余裕を見込むことで安全性を保証するようにしており、救命いかだでは実物を実海域で試験することにより安全性を確認する方法をとっている。浮体の転覆機構が明らかになるならば、転覆の危険性を客観的に評価することが可能となり、転覆をしないようにするための対策も確実に立てることが可能となる。そこで本研究では、浮体が転覆に至る場合を表現する運動方程式を確立し、浮体が転覆に至る過程で作用する流体力ならびに風、波、潮流から受ける非線形外力の推定法を開発し、浮体の転覆機構を明らかにした上で、浮体の転覆防止のための合理的な安全基準を提案することを目的とする。ここで浮体としてセミサブリグと救命いかだをとり上げる。その理由は、従来の研究よりこの両者の転覆機構は大きく異なると判断されたからである。 3年間の研究間において、(1)転覆シミュレーターの開発と浮体の安定解析、(2)複合外力下における浮体応答の研究、(3)水中線状構造物付き浮体の大変位運動の研究の3項目について検討を加えた。海洋構造物に対しては、うねりと風波が別々の方向から来る多方向波中での1次応答、2次応答の特性を調査し、安全性に及ぼす多方向波の影響を調べた。さらに風、波、潮流の組み合わせが最も厳しい場合の浮体の転覆状況を調査し、救命いかだを対象にして転覆防止のための安全対策を提案した。
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