本研究は平成2、3年の2ケ年にわたり、アモルファス合金中での原子中範囲規則(MRO)構造の形態、および、その生成と成長の過程を高分解能電顕により詳細に調べることを目的として行われた。本研究では、最も良く知られた基本的なアモルファス合金系の一つであり、構造に関するX線、中性子線回折などのデータが豊富なPd-Si系に着目し、主に、Pd_<82>Si_<18>組成の液体急冷リボン試料、Arビームスパッタ試料を用いた研究を進めた。構造観察は高分解能電顕(加速電圧200kV)、ナノビーム分析型電顕(200kV)により行った。また、リボン試料からの電顕試料作成には、本研究費で購入したイオン研磨薄膜作成装置を用いた。得られた結果を以下に示す。(1)リボン試料、スパッタ試料のいずれにも中範囲規則構造(fcc)が認められた。最適の高分解能電顕観察条件下での像とfccMRO構造モデルによる計算像は良い一致を見た。(2)MROの領域のサイズ、分布は急冷条件に依存し変化する。(3)573Kまでのアニールでは、MRO領域の成長が見られた。573K以上のアニールで、制限視野電子回折での第2ハロー回折環が2つに分裂する。このとき、MROは5nm程度に発達し、ナノビーム回折でfccパターンが得られる。この段階で、MROの中のSiは周囲に吐き出され始める。(4)623Kアニールで、制限視野回折パターンにおいてもfccパターンが現れる。この時、α-Pdのサイズは8nm程度であり、僅かのSiを含む。 以上のアニール過程での構造変化、変態温度はリボン試料、薄膜試料にほとんどよらず、同様に観察された。本合金では、573Kまでのアニール過程がいわゆる構造緩和の過程であり、その実態は、「MROの成長とそれに伴う組成の局所変化」と考える事が出来る。これらの変化は、構造緩和現象により生じるとされている「自由体積の減少、幾何学的および化学的短範囲規則の発達」を生み出す。
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