3年間に亘たる粒界設計制御工学的手法にもとづく脆性材料の強靭化に関する研究により、以下のことが明らかにされた。 作製方法の異なる三種類の脆性多結晶材料すなわち、加工熱処理法によって作製された高融点金属モリブデン試料、一方向凝固された金属間化合物Ni_3Alおよびその加工熱処理試料、さらに、急冷凝固後に焼鈍された強磁性Fe-50%Co合金薄帶試料に対し、存在する粒界の性格および分布(粒界性格分布)が実験的に調査され、これらの材料の破壊特性との関連が調べられた。その結果、多結晶材料の粒界性格分布は材料の作製方法が違っても、作製条件および作製後の熱処理により制御しうること、そして粒界脆性の制御は低エネルギー粒界の存在頻度を高め、逆に、粒界破壊を起こしやすい高エネルギーのランダム粒界の頻度を低下させることによって達成しうることが、実験的、理論的研究によって明らかにされた。さらに粒界性格分布の他に、粒界脆性に係わる粒界の幾何学的配置をも設計制御することが必要であり、粒界の幾何学的配置に関係する新しい組織因子として、粒界連結数、粒界三重線の性格分布が導入され実際の多結晶材料に対して実験的に決定された。 多結晶材料の破壊靭性、脆性一延性遷移現象が粒界性格分布および粒界の幾何学的配置に強く依存することが、多結晶体の破壊挙動のモデリングによって明らかにされ、粒界性格分布を手懸けとした本研究での粒界設計制御にもとづく粒界脆性制御の基本的原理の確立に対して、理論的裏付けを得ることができた。本研究で得られた脆性多結晶材料の強靭化の方策は、粒界脆性が問題となっているセラミックスにも応用しうるのではないかと予想される。
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