研究概要 |
高性能ポリエチレン延伸物を作製するには、分子鎖間の絡み合いを少くした未延伸物を30〜300倍に超延伸する必要があり、これに必要な超延伸倍率は未延伸物の作製方法,作製条件に大きく依存する。従って、超高分子量ポリエチレンの超延伸による強度,弾性率の上昇率は分子鎖間絡み合い密度に依存すると考えられたので、この関係を明きらかにする目的で、ゲルプレス法,ゲルキャスト法における強度,弾性率の上昇に及ぼす溶液濃度,溶液冷却速度の影響および熱延伸時の結晶配向,結晶サイズの変化について追求した。その結果、(1)溶液を除冷(1.5℃/分)して得られるゲル状球晶を用いるゲルプレス法では、溶液濃度(1wt%,2wt%)の影響が認められなかった。これは球晶生成過程で絡み合いがよく解きほぐされるためと考えられたので、濃度2wt%の溶液を急冷(5.4℃/分,16.5℃/分)して得られるゲルキャスト膜について、延伸による強度,弾性率の上昇をゲルプレス法と比較した。その結果、(2)強度,弾性率の上昇率はゲルキャスト法の方がゲルプレス法より大きい。(3)延伸応力が絡み合い密度に比例するとして算出される各試料の最大延伸倍率は、実測値とよく一致することがわかった。以上より、延伸による強度,弾性率の上昇率は未延伸膜での絡み合い密度に依存すると考えられ、絡み合い密度の高いゲルキャスト膜の方が、延伸による分子鎖の引き伸ばしや配向結晶化を促進すると推察された。一方、熱延伸時のX線回折の結果は、延伸による結晶配向度の上昇については.ゲルプレス膜とゲルキャスト膜とで差異が認められなかったが、ネック延伸後の織維状結晶への成長がゲルキャスト膜でより早期に起ることを示した。今後は、延伸による分子鎖形態の変化を赤外分光法により検討し、強度,弾性率の上昇挙動と分子鎖の引き伸ばし量との関係を知る必要がある。
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