水利施設構造物や地下水位の高い地点の堀削地盤においては、浸透破壊が問題となる。対応を誤ると施工計画上も経済的にも甚大な被害を及ぼすこととなるので、絶対に避けなければならない。浸透破壊現象に関しては、いまだ不明解な点も多く明らかにすべき点が多々ある。 ここでは、矢板背後地盤の浸透破壊問題に対象を絞り考察を行った。まず、実際に浸透破壊をおこした事例について調査、解析を行った。そして、浸透破壊がどのような要因によっておこるかについて考察した。 次に、理論的には、これまでに提案されている浸透破壊理論について、文献の収集、整理、分類を行い、3つの例題について解析し比較検討した。また、著者らは、今回新しい解析法として、Prismatic Failureの考え方を導入し、他の解析法とともに考察した。そして、各種安定解析法の特徴を明らかにした。 また、実験的には、まず、琵琶湖砂2の一次元浸透破壊実験を行い、試料砂の浸水特性、浸透破壊特性を明らかにした。次に、矢板背後の地盤の二次元浸透破壊実験を行い、地盤が破壊に至るまでの地盤内部の等ポテンシャル分布の変化、地盤状態の変化、水頭差〜流量関係の変化について詳しい解析を行った。そして、模型地盤の均質性・等方性について考察し、等ポテンシャル分布の変化点、地盤状態の変化点、水頭差〜流量関係の変化点が一致することを明らかにした。二次元浸透破壊実験においてはAEの計測を行い、AE特徴、AEの発生メカニズムを明らかにした。そして、AE計測により、浸透破壊の発生時点を予測することが可能であることを示した。また、上流側よりも下流側にAEの発生が多いことがわかった。これは、浸透破壊位置の評定の可能性を示唆するものである。浸透破壊問題は、いまだ未解明の点も多く、今後、さらに種々の観点から考察を行ってゆく必要があると考えられる。
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