研究概要 |
本年度は,昨年度購入したX線回折装置を用い,いくつかの物質に対する測定を行い,詳細な電子密度分布をマキシマムエントロピ-法により求めた。また,固体中水素の構造研究にX線回折法と相補的役割を果たす中性子回折デ-タの理論的取り扱い法を詳細に検討した。中性子回折では重水素が他のほとんどの原子と同様に正の位相を持った原子散乱径を有するのに対し,軽水素は-0.3739×10^<ー12>cmと負の散乱径を持つ。ところがマキシマム・エントロピ-法では負の密度を取り扱うことが不可能で,固体中水素の構造研究には,この負の散乱径の問題を避けることが出来ない。種々検討を重ねた結果,正の散乱径を持つ原子と負の散貼径を持つ原子に対して別々にマキシマム・エントロピ-法の基本式を導くことが出来ることが判明した。それにより,例えば通常の氷H_2Oでは,HとOそれぞれの原子核密度を考えることにより,負の散乱径の問題が解決出来ることが判った。これらの結果は,国内の学会としては,物理学会,金属学会,結晶学会,固体イオニクス討論会等で口頭発表を行った。また,国際会議としては,PICXAM(Pacific International Conference on Xーray Analytical Meeting)に2件,PCIー91(International Symposium on the Physic and chemistry of Ice)に1件,Sagamore会議にて1件発表した。これらの国際会議では,それぞれProceedingsが発行される予定である。PCIー91のProceedingsに詳述したが,氷Ih相では,2中心の水素結合により,Ice Networkが形成されているが,電子密度で見る限り,元々水素に帰属する電子は,プロトンには局在せず,Ice Network全体に非局在化していることが判明した。結果として,氷における水素結合は,非常に共有結合的であることが判った。このことが,氷の誘電率等他の物性に影響しているものと思われる。
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