研究概要 |
本研究の目的は,マキシマムエントロピー法と言う新しい方法により,固体中の水素の電子密度分布を調べることにあった。そのために,マキシマロエントロピー法が,この様な目的に有用であることを証明することから研究を開始する必要があった。それには,本研究の補助金で購入した水素検出用X線回折装置が,大いに威力を発揮した。安定度が高く,高分解能なデータが比較的簡単に測定出来るため,多くの物質に対して実験データを収集することが出来,マキシマムエントロピー法の有用性を実験的に実証することが出来た。この装置なくしては,本研究の遂行は,ほとんど不可能であった。これらの努力により研究代表者は,平成4年度日本結晶学会賞を授与された。この事は,学会もこの新しい方法に大いに注目していることを意味している。固体中水素の電子密度分布に関しても,非常に興味のある知見が得られた。固体中水素の電子密度分布は水素結合をしている時とイオン結合をしている時とでは,大いに異なることが判明した。水素結合をしている時は,共有結合電子の様な振舞を示し,自由原子による近似は非常に不適当であることがわかった。しはしば,X線では最も軽い元素である水素を検出できないと,教科書でも書かれる場合があるが,これは誤解で,自由原子による近似が成り立たないため,マキマムエントロピー法の様な結晶構造モデルに依存しない解析法が必となるだけである。一方,イオン結合の状態では,水素は非常に球対称な電子密度分布を示す。この時は,一見自由原子モデルで記述出来る様に思われるかも知れないが,負のイオンとなっているため,やはり,自由原子モデルは適当ではない。本研究により,近代的なX線回折法により,固体中水素の電子密度分布を詳細に調べることが出来ることが判明した。しかし,その目的には,マキシマムエントロピー法を用いることが必要不可欠となることに留意する必要がある。
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