研究概要 |
(1)被服材料の性能を決める基本になる單繊維の異方性力学特性の中で,繊維の軸方向の性質,繊維軸と直交する方向の性質およびねじり特性の測定を單繊維の断面形状が円形の代表的な衣料用繊維として,ポリエステル,ナイロン,アクリル,羊毛について行なった。さらに高性能繊維としてのアラミド,カ-ボン,セラミック,ガラス繊維についても異方性彈性定数を測定し,その大略を捉えた。また、綿、絹、麻などの繊維の断面形状が円形でない繊維についても顕微鏡によって断面積を測定して、單位断面積当りの伸長およびねじり特性を精密に測定することにより、綿、羊毛、絹は等方性に近く、化学繊維はこれらに比べて異方性の大きいことを明らかにした。しかし、天然繊維のなかでも麻は異方性の大きい特徴をもつことも判明し、多数の衣料用繊維のもつ異方性力学特性の範囲ならびに繊維の分子配向度との関係を見出した。 (2)代表的な衣料用繊維について、標準空気条件下における異方性力学定数に対する湿潤時の同特性を測定して、異方性力学定数におよぼす水分の影響を明らかにしようとした。その結果、ポリエステルやアクリル繊維の水分の影響による変化は、ナイロンや羊毛繊維に比らべて小さく、これらの繊維では、特に繊維軸を直交する方向の彈性率やねじり特性において水分の影響が顕著にみられることを明らかにした。 (3)單繊維の異方性力学特性が交差糸の交差角変化に伴う抵抗トルク特性に関係することを明らかにし、さらに布のせん断変形特性,なかでもせん断ヒステリシス特性との関連づけを行なった。高配向したポリエステル繊維は軸方向の彈性率は大きく彈力に富むが、繊維集合構造をとらせひときの横圧縮による圧縮彈性率の低さのため、繊維間摩擦が大きく、糸の曲げ、ねじり変形におけるヒステリシスの増大、さらには布の曲げ、せん断変形においても大きなヒステリシスを生むことを考察した。
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