これまでに電子注入準位を変化させた際の発光の有無についての検討がBardらによって成されていたが、スペクトルについての直接的な解析は全く行われていなかった。 我々は、極微弱発光であるCTRIP過程の検討のためにまず高速ポテンシオスタット及び、光電子倍増管とフォトンカウンタ-を組み合わせたパ-ソナルコンピュ-タ-制御による超高感度測光システムを構築した。測定系として溶媒にはアセトニトリル、支持電解質はテトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレ-ト、電子注入種は酸化還元電位の異なる3種類の芳香族化合物を用いた。作用電極には、ガラスまたは雲母上の蒸着金簿膜を用いた。電極表面は、作製条件をコントロ-ルすることにより平滑で規制された(111)面を持つことをX線回折、走査型トンネル顕微鏡によって確認した。スペクトルの高エネルギ-端が電極電位が正になるに従い1eV/Vで増大することより、発光が化学発光などではなく金属からの発光であり、電子注入エネルギ-が電子注入種の酸化還元電位と電極電位の差によって決定される事が分かった。又、スペクトルの形は、電子注入エネルギ-よりもむしろ電極電位により大きく依存することが分かった。さらにスペクトルのピ-クエネルギ-シフトの電位依存性は、ER法によって得られた金属/溶液界面の表面準位の電位依存性と同程度であることが分かった。以上の結果より、CTRIPスペクトルには内因的な金属表面の電子状態が反映されている事を初めて立証した。さらに同様の実験を白金、パラジウム、銀についても行い、スペクトルの解析を行った。その結果、発光過程には表面準位への緩和過程だけではなく金属/溶液界面に生ずる表面プラズモンの励起ー緩和過程も寄与することが明らかになり、現在さらに詳細な検討を進めている。
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