エネルギー問題や環境問題の解決のために、より活性や選択性の高い優れた固体触媒の開発は緊急の社会的要請となりつつある。この要請に応えるためには、まず触媒反応の活性と選択性を支配している因子を解明し、より高性能な触媒開発の指導原理を得ることが不可欠である。近年の表面解析法の著しい発達は原子・分子レベルでの触媒活性点構造の解明を可能にした。一方、反応中の触媒表面での反応中間体の挙動の追跡には同位体トレーサー法が有効である。本研究ではプロペンの水素交換反応をプローブとして種々の触媒表面活性点構造を規則的に変えていったときのプロペン分子の吸着状態の変化をマイクロ波分光法で決定し、反応の活性・選択性を支配している因子の解明を試みた。 我々は既にこの方法を金属触媒や合金触媒に適用し興味ある知見を得ているが、本科研費期間中は、主にシリカやアルミナ担体に高分散させたZrO_2、TiO_2、ZnO酸化物微粒子上でのプロペン一重水素交換反応を検討し酸化物触媒でも構造敏感性が存在することを明らかにした。また、金属表面のモデルと考えられている金属カルボニルクラスター錯体をアルミナ担体に固定化した触媒上での同様の検討を行ない、この反応の活性点構造として金属原子1〜2個で十分であることを結論した。 更に、このプローブ反応をより複雑な反応のモニターとして利用することを試みた。例えば、C_3H_6-C_3D_6-O_2反応で生成する重水素化プロペンをマイクロ波分光法で解析することによりプロペンの酸化反応についての情報を得ることが出来る。本研究では、この手法によりプロペンのヒドロホルミル化反応やNOのプロペンによる選択的還元反応の反応中間体について検討を行ない、その選択性を支配している因子について考察を行った。
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