研究課題/領域番号 |
02453006
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
菅原 正 東京大学, 教授学部, 教授 (50124219)
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研究分担者 |
泉岡 明 東京大学, 教養学部, 助手 (90193367)
佐藤 直樹 東京大学, 教養学部, 助教授 (10170771)
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キーワード | プロトンダイナミックス / 誘電性 / 互変異性 / 分子間水素結合 / X線構造解析 / 固体高分解能NMR / 誘電率測定 |
研究概要 |
前年度、我々はプロトン移動と連動した互変異性に基づく誘電性が発現される系として、2ーカルボキシ-3ーヒドロキシフェナレノン(2)を見出し、2が室温常圧下で常誘電相を有し、40Kで反強誘電相へ相転移することを明らかにした。本年度はまず、この相転移の機構を解明すべく、ラウエ法により反射点強度の温度依存性を測定した。いくつかの反射強度について、40K付近で不連続な強度変化が観測されるものの、その変化は微少であり、相転移前後で空間群は同一に保たれていることが判明した。この結果は、40Kでの転移が2次転移である可能性を示唆するものである。 次に分子研・薬師らの協力を得、本系の誘電応答の交替電場周波数依存性をより広範囲に測定し、10GHzでなお応答に変化がないことより結晶中、化合物2の極性反転の応答速度は10^<10>S^<-1>以上であることを明らかにした。従来の誘電体では、イオンや極性部位の変位により極性反転が起こるのに対し、本系ではπ系の改変とそれに伴うプロトン移動により極性反転が起こるため、この様に速い応答速度が実現したものと考えられる。 一方、新しい水素結合系として2ーカルボキシ-1、3ージベントロポロン系(4)を取り上げた。この化合物はトロポロン環に特有な電子構造を有する外、分子にビフェニル骨格に基づく軸不斉が存在するところに特徴がある。この化合物は、構造解析の結果、4の分子内の酸素、酸素原子間距離は2.41Aと著しく短く、水素結合ポテンシャルが一重井戸型に近づいていることが示唆された。また、4は固相内で脱炭酸反応を起こし、1、3ージベンゾロトポロン(3)へと変換する。粉末X線法により構造変化を追跡したところ、脱炭酸固相内の水素結合状態は、3自身の単結晶中とは異なるが、アニ-ルにより固相内で結晶化が起こり、3の結晶形と一致することが見いだされた。 以上、3ーヒドロキシエノン系において、特に2位に互変異性を仲介するカルボキシル基を導入することにより、著しく速い応答速度を持つ誘電体を開発し、その機構を分子論的に解明した。また固相内反応により誘発される水素結合系の再構築と、それに伴う固相内分子の再配列という動的挙動を示す新しい系を見いだすことができた。
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