熱量計の熱測定部に関して十分な性能が得られたことを確認するとともに、圧力の伝達および制御、体積測定部の製作も試料容器内で試料と圧力媒体を分離するインジウム容器の製作を残して完成した。熱容量・体積同時測定には熱量および体積測定用に別々の計算機を用いることにより、世界で初めての自動化の目途が得られた。 定積熱容量を解析し、配置変化を含む分子運動自由度間のカップリングを考察するうえで、比較的わずかな乱れのみが存在する場合についての情報が基本的に重要である。一次元配向無秩序結晶として2ーハロゲノチオフェンおよびピリジニウム塩結晶の常圧下熱容量を測定し、配向の無秩序化に伴う熱力学的および動力学的性質の変化に検討を加えた。2ーハロゲノチオフェン分子は平面構造を持ち、結晶においても平面内での分子配向に無秩序が残る。この無秩序性に原因したガラス転移は2ーブロモチオフェンでは一段で、2ークロロチオフェンでは二段で進むことを見出し、3つ以上の配向状態、すなわち2つ以上の再配向過程が存在する場合、その2つの過程はカップルし、熱力学および緩和の性質が変化することを示した。ヨウ化ピリジニウムではピリジン環の平面内配向に関する無秩序化が温度とともに進展する。無秩序性が部分的で1つの自由度に限られたこの場合には、無秩序相における配向の数と相転移エントロピ-はボルツマンの式で簡潔に結ばれ、実際に無秩序相における配向の数は12であることを示した。ヘキサフルオロリン酸ビリジニウム結晶ではピリジニウム結晶ではピリジン環の配向とPF_6^-の配向自由度が存在するが、2つはカップルし、1つの相転移を与えて無秩序化する。 今後、上記装置の完成により定積熱容量を測定し、位置および配向自由度を代表とする自由度間のカップリングと分子運動変化の詳細についてさらに検討を加える予定である。
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