研究概要 |
高い電気伝導性を示すポリアセチレンの電気伝導機構を研究するため、大きな延伸性を示すポリアセチレン薄膜を合成し、これを過塩素酸イオンや、金属カリウムでドープした。その際におこる吸収および、反射スペクトル、紫外光電子スペクトルの変化を定量的に研究した。 その結果ドーピングによりおこる構造変化は2段階であり、ドーパント濃度の低い状態では、ミッドギャップバンドを与える荷電ソリトン構造を生じ、次の段階、金属性を与える構造へ変化することが分かった。電気伝導度が30000S/cm近くの高い値を示すポリアセチレンでは、金属に特有の赤外部から遠赤外部に、高い反射率が観測され、薄膜でも、この領域に強い吸収帯が現れる。紫外光電子スペクトルでは、真に金属的な状態の出現を意味するフェルミ準位が観測された。 次にドーピングにより、どのような分子構造の変化が起こったかを、明らかにする目的で、荷電ソリトン構造については、C_<11>H_<13>Cl、C_<11>H_<13>Naなど、ポルソン構造にたいしては、C_<13>H_<15>Na_2,C_<13>H_<15>Cl_2などのモデル分子について、ab initio MO法による計算を行い、最適化した分子構造を決定した。 荷電ソリトン構造も、ポルソン構造も、ポリアセチレンの鎖のうえに、ドーピングによって生じる準安定状態であり、それぞれに特有の性質を示す。次にこれらの構造を含む、長いポリアセチレン鎖について、エネルギーバンドの計算を行って、実際にポルソン鎖においてのみ、金属的なフェルミ準位が出現することを、明らかにした。 これらの結果を合わせて、光電子スペクトルの変化、可視、赤外スペクトルの変化など、分子構造の変化に対応した、電子構造の変化が明らかになり、ドーピングによる高い電気伝導性の発現の機構が明らかになって、今後の電導性高分子の研究に一つの指針が与えられた。
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