研究概要 |
本研究の目的は,(1)時間分解ESRにおける新しい方法論の開発を試みること,(2)従来の方法を用いて化学的に興味ある問題への展開をはかる.の二つである。第一の課題については,主として遅延過渡章動法を用いて短寿命三重項状態のダイナミクスの研究を試み,この方法が10〜100μsの寿命の三重項状態の研究に十分有用であることが示された。 CIDEPーENDORの試みについては,ENDOR用キャビティの納入が予定より遅れ,この方法の検討は次年度の課題として残された。第二の課題については以下のような実績を得た。(1)カルボニル分子の水素引き抜き反応における重水素効果 アセトンなどの脂肪族カルボニルの三重項状態の水素引き抜き反応について,CIDEPスペクトルの詳しい解析から重水素効果について詳しく調べた。その結果k_H/k_Dは常温から-40℃まで3〜4の値で,ほとんど温度変化しないことが示され,古典的な遷移状態論からの予測とは合わないことが明らかにされた。 (2)ベンジル光反応におけるCIDEPの機構,ベンジルの光反応で生じるCIDEPは2ープロパノ-ル中で速い立ち上りと遅い立ち上りの2成分から成る。遅い成分について温度,溶媒,濃度依存性について詳しく検討を行い,そのCIDEPの機構について考察した。その結果は三重項ー二重項の相互作用によって生じる機構から予測されるものと矛盾しないことが明らかにされた。(3)ハロゲンを含むベンゼン置換体の三重項状態の挙動について,時間分解ESR法を用いて詳しい研究を行った。その結果,ゼロ磁場の様担により三つの場合に分類されることが明らかになった。この結果をベンゼン置換体における疑ヤン・テラ-効果の分子および溶媒依存性より説明することを試みた。その他に,ピラジン誘導体の三重項状態のゼロ磁場分裂の温度変化,ベンズオキサゾ-ルの短寿命三重項状態などについても興味ある知見を得た。
|