研究概要 |
本研究の目的は時間分解ESR(TRESR)による短寿命三重項状態と中間体ラジカルの研究の新しい展開をはかることで、その方向は二つに大別される。第一は方法論の展開で、CIDEPーENDORと遅延過渡章動法を試みた。ENDOR用の特殊キャビティを設計、製作しCIDEPーENDORの実験準備は完了したが、これを用いて種々の実験を行うには至らず、今後の課題として残された。遅延章動法による三重項ダイナミクスの研究についても予備的な実験は完了し、今後興味ある系への利用の見通しが得られた。第二の方向は化学的に興味ある新しい系への研究の展開で,この方向では以下に記す興味ある成果が得られた。(1)短寿命三重項状態の研究a)分子内水素結合系の三重項状態メチルサリチレ-トとその関連化合物の三重項状態について混晶を用いて詳細な実験的研究を行って零磁場分裂テンソルやスピン密度を決め、さらにUHF法を用いての計算結果と比較検討してその電子状態、構造について知見を得た。また、ベンゾオキサゾ-ル、ベンゾチアゾ-ルの三重項状態のTRESRによる研究を種々の容媒中で行い、その三重項状態の性格を明らかにした。b)ピリジン置換体の三重項状態、4シアノピリジンの三重状態について混晶を用いて詳しい実験を行うと共に、ab initio計算、りん光観測の結果も加えて三重項状態について詳細に調べ、この三重項状態が ^3nπ^〓ー ^3ππ^〓の振電相互作用で大きく歪んでいることを明らかにした。c)C_<60>,C_<70>の三重項状態C_<60>,C_<70>の三重項状態をTRESRで調べ、その電子状態と低温におけるダイナミックスについて興味ある知見を得た。(II)光化学初期過程の研究ベンジルの光反応で生じるCIDEPについて、分極の生じる機構、低温イソプロパノ-ル溶液中で観測されているシグナルの遅い立ち上りの原因の解明を中心に詳しい研究を行って興味ある知見を得た。
|