研究概要 |
1.次世代テクノロジ-としての分子性有機磁性を現実のものとするためには,磁性高分子の磁性発現機構を解明すると共に,一方では強磁性的スピン整列以外の多様なスピン秩序形態を見い出すことが極めて重要である。この目標に対してごく最近我々は異なる大きさの二つのスピンが互いに反平行(反強磁性的)に結合しても基底状態においてネットスピンをもつような複合型高スピン分子を設計合成し,その実在をESRによって証明した。これは有機フェリ磁性体の最初のモデル分子であり,有機磁性が多様な巨視的スピン秩序を示す可能性を実証したものである。 2.本研究では,有機フェリ磁性分子の基底及び熱的励起状態においてスピン密度が一体どのようになっているのか,果してこの分子性ヘテロスピン系の物理的描像がどのようなものかを明らかにするために,単結晶のH核のENDOR/TRIPLE(電子核二重/三重共鳴)法によって実験的に解明し,分子性有機磁性体の設計・開発のための指針を得た。ヘテロスピン系モデル分子として,基底三重項ジフェニルカルベン(T)と基底五重項メタフェニレンビス(フェニルメチレン)(Q)をそれぞれ,4,4'位において酸素原子で架橋した4T4'Qエ-デルを採用した。今年度は前年度にひきつづき,すべてのH核の超微細結合テンソルを決定するためにエ-テル基が直接結合しているベンゼン環の重水素化合物の合成を試みたが成功しなかった。そこで重水素化していない4T4'Qエ-テルについて,すべてのH核の超微細給合テンソルを,前年度に決定したH核の帰属デ-タと比較することによって決定した。 3.二価炭素部位を ^<13>Cで標識化した化合物の合成は現在進行中である。また熱的励起五重項,七重項状態のH核のENDOR信号は今なお検出されておらず,ENDOR信号検出に有効な空調共振器(円筒型TEモ-ド高感度)の自作を急いでいる。
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