研究概要 |
有機磁性の可能性を現実のものとするには、磁性高分子の磁性発現機構の解明と共に一方では強磁性的スピン整列以外の多様なスピン秩序状態を見い出すことが重要である。本研究では、有機フェリ磁性体のモデルヘテロスピン系をはじめて設計・合成し、基底スピン状態におけるスピン密度分布の全解析を行った。その結果、異常な大きさの負のスピンが実在し、これはヘテロスピンの一方が他方に対して反転していることに由来することが証明された。その結果、異常巨大スピンはヘテロスピン反強磁性系に固有の性質であり、分子性有機磁性体の分子設計上有用な物理的描像を提供することがわかった。またこれ迄の化学における負のスピンの概念を修正する必要があることを実験と理論の両面から明らかにした。典型的なフェリ磁性分子として基底三重項ジフェニルカルベンと基底五重項メタフェニレンビスフェニルメナレンを4,4位において酸素原子で架橋した4T4Qエーテルを採用した。現存迄に、エーテル基を狭む二つのベンゼン環を重水素化したシアゾ前駆体の合成には、予想に反して全く新しいルートの用発が必要であることがわかったので、水素核のENDORスペクトルの全解析には無重水素化駆体を採用した。ベンゾフェノンd-10中に磁気的に希釈した無重水素化4T4′Qエーテルの水素核のENDORスペクトルの完全解析の結果、二価炭素及び水素核をもたない炭素、サイト以外のすべての炭素サイト′上のπスピン密度を実験的に決定した。その結果、反転ヘテロスピン系のスピン密度は、スピンカップリングの群論的収縮のために古典的描像に対して小さくなることも実験的に明らかになった。フェリ磁性分子のスピン密度分布は、弱く相互作用した三重項一五重項相互作用モデルによって定量的に説明できた。二価炭素のBCによる標機化のための合成は、近々終了するので、二価炭素上に巨大負スピンの実験的決定を行う予定である。
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