本研究は孤立状態の分子イオンの電子、振動状態を研究するための新しい分子分光法を開発し、多原子分子イオンに適用して未知の電子、振動状態を解明しようとするものである。"分子イオンは励起電子状態で解離しやすい"という性質を利用したもので、従来の高感度分光法(蛍光励起分光、多光子イオン化分光)とは全く異なる測定原理に基づく独創的なものである。この新しい分光法(質量選別イオン・ディップ分光法と命名)は分子イオンの電子スペクトルを高感度、高分解能で測定できる極めて有用な分光法であることが示された。 この分光法をベンゼン誘導体イオンに適用し、これらイオンの電子、振動状態を解明するとともに、イオンの解離機構についても詳細な研究を行った。とくにoー、mー、pージフルオロベンゼンカチオンについて重点的に研究を行ない、これらイオンの低エネルギ-電子励起状態のポテンシャルについて極めて興味ある結果を得た。これらのイオンの低エネルギ-電子状態は近接する他の電子状態との振電相互作用の結果、ポテンシャルが大きく変形しており、この変形がイオンの発光特性と密接な関係があることが示された。 本研究の目的としたイオンの新しい分光法の開拓とイオンの電子状態の解明は充分に達成され、将来への発展の重要な足掛りが得られた。
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