研究概要 |
ベンゼンとエチレンなどの簡単なオレフィンをフレオン溶媒に溶かし,77Kに冷却すると無色透明なガラス状固体が得られる。この凍結溶液にガンマ-線を照射するとベンゼン,オレフィン各成分に由来するラジカルカチオンが生成する他にベンゼンとオレフィンがガンマ-線照射前に低温溶液中で緩やかに錯体を形成することに由来する錯体のラジカルカチオンが電子吸収スペクトルによって検出された。このような錯イオンは近年,自由噴流中の多光子イオン化法などによっても見出されつつあるが,凝縮相についてはこれまで明確な実験的証據が報告されなかった。本研究ではこのような錯イオンの生成をはじめて明らかにした。さらにこの錯イオンは成分間の電荷移動吸収帯を示すことが分り,この吸収帯に相当する可視・近赤外光で励起すると少くとも数段階を経てはじめの緩やかな錯体結合からパイ電子共役系が完全に発達しつくした価電子異性体のラジカルカチオンになるという全く新奇な事実を明らかにすることができた。具体例をあげるとベンゼン(C_6H_6)とエチレン(C_2H_4)の組合せでは最終生成物としてオクタテトラエン(C_8H_<10>)のラジカルカチオンが生成する。この系ではベンゼンに対し,エチレンの初期濃度を大きくすると上の1:1附加物の代りにベンゼン1個に対しエチレン2個が附加したC_<10>H_<14>のラジカルカチオンになることも分った。ベンゼンとエチレンを予め共有結合させたビシクロ〔2.2.0〕オクタジエンを出発物質にした場合はガンマ-線照射によってはじめ出発物質のラジカルカチオンが生成するがこれは光照射によって容易にベンゼン・エチレンから出発した場合と同じ錯イオンを与え,その後の光化学的挙動もベンゼン・エチレンの場合と同じであることも明らかになった。現在,異性化の中間体の同定を中心に研究を進めているが平行して気相での反応の可能性を明らかにするため分子科学研究所との共同作業を進めている。
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