棒状液晶化合物は分子間力を得るため、コアと呼ばれる剛直性のある構造を分子の中心に持つ。そのコア部は最低2環必要とされ、主にベンゼン環が用いられる。トロポン環はベンゼン環に比べて分子幅が広いため、液晶のコア部としてはほとんど用いられていなかった。 最近、2ーアシロオキシトロポンのアシル基が隣のカルボニル基に熱的に転位することを液晶発現の原動力にした新規液晶を合成した。これは液晶状態で疑似的に環形成され、2位の置換基が平均的に分子長軸方向に並ぶためである。この疑似環形成を利用して、初めてモノトロピックながらS_A相を示す単環性トロポノイド液晶1を合成した。 次に合成した二番目の単環性液晶2は1より融点が上昇したが、モノトロピックながらS_A相を示した。側鎖に二重結合を導入した3の熱安定性は1とほぼ同程度であるが、液晶温度域は拡大した。また、1では液晶性を示さないが、3では液晶を示す化合物が得られた。以上の結果は二重結合の導入により、疑似環形成時にコア部が拡大されて、分子の配向を助け、その結果、直線性と平面性を増大させたと解釈される。この考えを5位の置換基に応用し、新たな単環性トロポノイド液晶4や5が合成できると考えている。 以上、ベンゼノイドには期待できないトロポノイド特有の構造上の特徴を生かして単環性液晶が合成できた。これは従来の考えを覆すと共に、単環性液晶は低粘性が期待でき、実用的にも興味深い結果が得られた。
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