カイコ5齢幼虫(3000匹)の体液を採取しー80℃で凍結保存、必要量を随時溶解使用した。被検菌としてストレプトマイシン耐性の大腸菌(Escherichia coli B/SM)を使用した。キチンに対するアフィニティ-クロマトグラフィ-により中性緩衝液で溶出してくる通過画分と0.1N酢酸で溶出されるリゾチ-ム様画分に分離した。双方の画分にMicrococus Lysodeikticusに対する溶菌活性が認められた。リゾチ-ム様画分には単独で大腸菌に対する抗菌活性が認められた。リゾチ-ム様画分をゲルろ過クロマトグラフィ-により分画し、アフィニティ-クロマトグラフィ-により得られた通過画分と組み合わせて抗菌活性を検定したところ、混合時に抗菌活性を示すフラクションの主要部分は、単独でも抗菌活性を示すことが明らかとなった。再度のゲルろ過クロマトグラフィ-および陽イオン交換クロマトグラフィ-により、リゾチ-ム様画分の分離を行い、溶菌活性を示す3種類の画分を得た。そのうちの2種類の画分が抗菌活性を示したが、主たる活性は最も早く流出してきた画分に見いだされた。この画分は、先の通過画分との組合せで活性の大幅な増強を示した。この画分は電気泳動でほぼ単一のバンドを示し、卵白リゾチ-ムより強い塩基性を示した。ついで前述の通過画分をゲルろ過クロマトグラフィ-にかけ、各フラクションとリゾチ-ム様粗画分を組み合わせて抗菌活性を検定し、いくつかの活性画分を得た。これらの画分の中には、1)単独でも抗菌活性を示すもの、2)リゾチ-ム様画分と混合することにより抗菌活性の大幅な増強を示すもの、3)リゾチ-ム様画分と混合することにより抗菌活性が減少するものが存在し、各画分の混合比も抗菌活性の発現に影響することが明らかになった。これらの事実からカイコの正常体液には細菌に対する自己防御機構として非常に複雑な系を持っていることが判明した。
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