パルス放射線分解法による極低温化学反応の研究

1990 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 02453077
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 宮崎 哲郎 名古屋大学, 工学部, 助教授 (90023126)
• キーワード: 極低温反応 / トンネル効果 / パルス放射線分解 / ホトンカウンティング / プロトン移行反応 / H原子反応 / 細胞の放射線影響

研究概要

従来77K以下の極低温では化学反応は全く起らないと考えられていたが、粒子の波動性に基づく量子力学的トンネル効果により極低温でも反応が起ることがわかって来た。ここでは新しい極低温トンネル反応について研究した。また研究手段として高感度ホトンカウンティング法を製作した。極低温パルス放射線分解法と極低温ESR法を併用して研究した結果を実施計画の順に以下に説明する。
1.ホトンカウンティング法の確立
光量子の数を測定するホトンカウンティング法を立ち上げ、種々の困難を克服し、最終的にはこの方法を確立することに成功した。
2.極低温におけるイオン分子反応
低温エタノ-ル中におけるベンゼンアニオンへのプロトン移行反応において著しい同位体効果を発見した。これはトンネル反応の関与を示唆するものであり、イオン分子反応としては初めての例である。
3.H(D)原子のトンネル反応および量子拡散
4.2K H+H_2→H_2+Hトンネル反応に対し回転量子状態の影響を初めて明らかにした。また固体水素中でのH(D)原子のトンネル反応や量子拡散において重要な支配因子となる水素原子の捕捉サイトについても知見を得ることが出来た。
4.極低温・凍結生細胞に対する放射線照射効果
ハムスタ-細胞は生きた状態で極低温に凍結することが出来る。これに着目し生細胞の放射線照射効果を電子スピン共鳴吸収によるラジカル測定と生物学的測定とを併用して研究した。この結果、従来云われていたOHラジカルによる放射線生物影響説には疑問があり、H原子のトンネル反応やイオン反応が重要であろうと結論した。

研究成果

• [文献書誌] T.Miyazaki: "Yields of Trapped Hydrogen Atoms and Temperature Increase in Radiolysis of Solid Hydrogen at 4.2 K." Radiat.Phys.Chem.36. 501-503 (1990)
• [文献書誌] T.Miyazaki: "Ultralow Temperature Effect on Proton Transfer Reaction to Benzene Anions in γーIrradiated Ethanol Glass" Radiat.Phys.Chem.36. 323-326 (1990)
• [文献書誌] T.Miyazaki: "Observation of ESR Spin Flip Satellite Lines of Trapped H Atoms in Solid H_2 at 4.2 K" J.Phys.Chem.94. 1702-1705 (1990)
• [文献書誌] Y.Fujitani: "Moderation and Tunneling Reaction of Recoil T Atoms in Solid XenonーHydrogen Mixtures at 77 K" Bull.Chem.Soc.Jpn.63. 520-524 (1990)
• [文献書誌] T.Miyazaki: "Radioprotective Effects of Dimethylsulfoxide in Golden Hamster Embryo Cells Exposed to γーRays at 77 K.I.Radical Formation as Studied by ESR" Radiat.Res.124. 66-72 (1990)
• [文献書誌] M.Watanabe: "Radioprotective Effects of Dimethylsulfoxide in Golden Hamster Embryo Cells Exposed to γーRays at 77 K.II.Protection from Lethal,Chromosomal,and DNA Damages" Radiat.Res.124. 73-78 (1990)