研究概要 |
平成3年度には,対アニオンの求核性に着目してビニルエ-テルのリビングカチオン重合の新しい開始剤を開発すると共に,これらから生成する生長種の性質を分光学的および速度論的に解明した. 1)リビングカチオン重合の新規開始剤系の開発 種々のプロトン酸と弱いルイス酸から成る開始剤系を検討し,ハロゲン化水素(HBr.HCl)を開始剤,ハロゲン化亜鉛(ZnI_2,ZnBr_2,ZnCl_2)を活性化剤とすると理想的なリビングカチオン重合が起こることを見出した.一方,安息香酸誘導体をハロゲン化水素の代わりに用いると,核置換基が電子求引性の場合には理想的なリビング重合が起るが,核置換基が電子供与性の場合は,開始剤の消費が重合に比べて遅くなり,分子量の規制が因難であった.これらから,開始剤のプロトン酸から生じた末端1がルイス酸で2のように活性化されて生長反応が起り(式1).1と2の相互変換速度が重合のリビング性を変化させることを明らかにした. 2)成長種の分光学的観測 ビニルエ-テルとハロゲン化水素との付加体を上記の開始剤系から生成する生長末端のモデルとし,これと塩化亜鉛などとの相互作用をプロトン核磁気共鳴分光法で観測し,以下の結果を得た.(1)付加体のハロゲンと塩化亜鉛とが相互作用すること(末端の活性化(式1)の実証),(2)相互作用は速い可逆過程であること,(3)生長末端のハロゲンは急速に塩化亜鉛の塩素とハロゲン交換反応を起すこと,等を明らかにした.結果(2)と(3)から,これらのリビングカチオン重合においては,ルイス酸活性化剤により末端1が活性化されてモノマ-と反応する際(式1),イオン的な中間体2を経る事を実験的に初めて明らかにした.
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