ラジカル重合、共重合における生長機構を解明し、生長種の反応制御を行うことを目的として、イタコン酸ジアルキルのラジカル重合における素反応に及ぼすアルキル基の効果、溶媒効果、さらにSnCl_4の効果を検討した。 まず4種のイタコン酸ジアルキルの重合を、50℃、ベンゼン中で行い、ESRを用いてそれぞれの生長(k_p)および停止速度定数(k_t)を決定した。k_p、k_t共にアルキル鎖長の増加と共に減少するが、k_tについて特に顕著である。イタコン酸ジメチルとイタコン酸ジオクチル(DOI)を比較すると前者がk_pは3.3倍、k_tは590倍も大きい。結果として重合速度(R_p)はアルキル鎖長と共に大きくなることがわかった。 DOIのラジカル重合の速度は用いた溶媒によって大きく変化する。溶媒の極性が増加する程R_pは減少する。重合条件下での生長ラジカルのESRスペクトルを観測し、8種の溶媒中でのk_pを決定した。k_pはR_pとよく対応し、無極性溶媒中程大きい。ヘキサン中で6.8l/mol・secであり、アセトン中で1.4l/mol・secであった。ラジカル重合としては大きな相違である。この溶媒効果は溶媒と生長鎖の親和性の違いで説明できる。 また、イタコン酸ジエチル(DEI)の重合に及ぼすSnCl_4の効果を調べた。生長ラジカルのESRスペクトルはSnCl_4の添加によって変化し、その電子状態が変わったことが解る。生長ラジカルのESRスペクトルから求めたk_p、k_tはSnCl_4濃度の増加とともに減少する。SnCl_4の配位によってひき起こされる立体効果、極性効果によって、説明できる。さらにDEI/SnCl_4錯体とスチレンの交互共重合における交差生長速度定数を決定することに成功した。これを用いてこの交互共重合における生長機構を推論した。
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