晶析法により光学分割を行なうには対掌体が析出しない許与範囲で種晶を成長させることが有効であると考え、塩化ナトリウム添加系のSCMCラセミ過飽和溶液中での光学活性体種晶懸濁系の晶析実験を行なった。まず、種晶の成長速度と微結晶の生成速度を実測し、それぞれについて操作過冷却度との間に相関式を得た。また懸濁微結晶は、操作過冷却度が5から15Kでは、95%以上が種晶と同じ光学活性体であったのに対して、20K以上では20から30%の割合でその対掌体が生成していた。一方、種晶は懸濁微結晶の付着を伴いながら成長していくのを確認した。そこで成長実験後、種晶中に取り込まれた不純物量を実測した結果、操作過冷却度が5から10Kでは0。5%以下であったが、15から30Kでは5.6から14.5%であった。この不純物中に塩化ナトリウムは検出されなかったため、本操作条件では母液の包含は無視できると考えた。さらに成長実験後の結晶を種晶と同じ光学活性体の飽和溶液中に浸積すると結晶表面に付着した微結晶の一部は溶け、浸積後の種晶中には不純物がほとんど検出されなかった。このことより、高操作過冷却度の条件下では不純物となる光学活性体が成長種晶表面上に二次元核発生してくるものと考えた。この付着現象を種晶の成長速度と純度との関連で検討するため固定単一結晶の成長表面のその場観察を行なった。この実験では微結晶の付着効果を検討するため、ラセミ過飽和溶液中に微結晶を含ませた場合と過飽和溶液のみの場合の二つの実験を行った。前者では微結晶が付着しており、その成長速度は多結晶懸濁系のものとほぼ一致していた。しかし、後者では比較的滑らかな表面のまま成長し、その速度は前者より10%から50%小さかった。以上の結果は、微小結晶の付着現象を制御することによって、高純度の製品を得る操作法を見いだすことが可能であることを示唆するものと考えている。
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